展示空間が語り出す。音と物語でつくる“体験する美術館”
三菱一号館美術館で開催されたモノクロ木版画を中心とする展示「ヴァロットンー黒と白」内での企画として、展示を鑑賞しながら、謎解きも楽しめるオリジナルシナリオの参加型ボイスストーリーを提供しました。
体験に活用したのは、GATARIと乃村工藝社が共同開発した音のMRによる非接触型サウンド空間体験サービス「oto rea(オトリア)」です。体験中はスマートフォンとウェアラブルスピーカーを身に付けることで、作品の世界観とボイスストーリーによる不思議な没入体験をもたらしました。
Background
普段美術館には来ない「新規顧客」の来場を促すため、作品解説とは別に、展覧会会場を舞台としたストーリー型コンテンツを企画。このコンテンツ自体で集客し、展示を見に来る予定のなかった層の来場を実現しました。(72.8%が、ヴァロットン展を目的としていなかった来場者)2週間で約150万円の入場料収入を生み、平日夜など普段来場者が少ない時間帯の集客にも効果が期待できる結果となりました。
Process
謎の男の声に導かれて美術館を巡るミステリー体験。来場者は音声ストーリーを手がかりに展示室内を歩きながら、作品にまつわる謎や人物像を探ります。鑑賞体験と物語が重なり合うことで、自然とアートへの理解が深まり、物語の結末は来場者自身の選択によって変化する、マルチエンディング形式の新しい美術館体験です。
Value
2週間で528名の方に体験いただき、普段美術館に来ない新規層に対する魅力向上策、来場者が少ない時間帯における集客施策などの有効性を確認することができました。
作品解説や音声ガイドとは異なる、美術館の新たな鑑賞体験の機会となり、展覧会で与えられた者とは異なる文脈を付け加える余地が開発されました。アンケートでは76.8%が「満足」「非常に満足」と高い評価が得られました。また、参加型ボイスストーリー体験者のうち72.8%もの方が、本企画をきかっけにヴァロットン展に訪れたと回答しており、新たな層が美術館で鑑賞をする契機となりました。


狙いとしていた新規層の集客を達成したことに加え、視覚障がいを持つ方や視覚障がい者のガイドをされている方からは「目で楽しむことが主流となる美術館は視覚障がいがあるとなかなか足を運ぶことはないが、今回非常に楽しむことが出来た。」「世界が開けたような感じがした。」「視覚障がい者のガイドをしています。美術館や博物館、展覧会に興味のある視覚障がい者もいます。是非、普及して欲しい。」などの感想をいただきました。「oto rea」を通じて、美術館の魅力をより広く豊かに届けていくことができる可能性があることを検証できました。
訪れたお客様からは、
「推しのおかげで美術館に行って文化的な日を過ごした」
「ボイスストーリーを聞くために行ってみたら、学生時代の版画のイメージが覆されて柔らかい絵に衝撃を受けた」
「一般的な音声ガイドとまた違って、特定の場所に入ると自然とストーリーや音が聞こえてくる。最後のパートでは私自身も参加できるストーリーで面白かった」
といった感想が寄せられ、ボイスストーリーを契機に展覧会を訪れたり、ストーリーを楽しんでくださった様子が伺えました。

Project Information
日時:2022年12月9日(金)~12月23日(金)
時間:10:00~16:55(18時閉館日)、10:00~19:55(21時閉館日)
体験時間:約1時間
会場:三菱一号館美術館 企画展「ヴァロットン−白と黒」
料金:無料(但し、展覧会鑑賞券が必要)
Credit
記憶喪失の青年役:梶原岳人
謎の男役 :笠間淳
サービス開発:株式会社GATARI
体験設計:株式会社乃村工藝社
シナリオ・ビジュアル制作:株式会社ハレガケ
コンテンツ制作協力:三菱一号館美術館